お話やキャラクター、制作上のあれこれ

※ネタバレを含みます
















秋人(あきと) 

「こうしたい」という自分の意思がない、というより持てないでいる秋人。いろいろなことが中途半端で意欲にも欠け、そんな自分を分かっていてもやもやしている。ありふれていてぱっとしない、底が浅くて付き合うにはつまらなそうな子にしようと思ってできたキャラクターです。

今回のお話の舞台として意識したのは「行き止まり」です。先は見えず未来なんて存在しない、それまでにいろいろな選択肢があったはずなのに、どこにも引っ掛かれずここまで転げ落ちてきてしまった子。そんな境遇から、希望はない。いろんなことがどうでもよく、基本的に受け身で言葉もネガティブな秋人の形ができていきました。

地下の「行き止まり」に至るまでの選択肢をふいにしてきた秋人に選択肢はもう残されていない。それに選択肢を用意したところで、どのみち秋人の命は助からないことを決めていたので、今作は完全に一本道の読み物になりました。例えば死に方を選べたところで、大きく運命が変化するわけでないなら選択する意味がないと思います。まして、選んだ先に分かりやすいハッピーエンドがないのなら尚のこと。

後ろ向きで口の軽い秋人の台詞は、これまでの主人公と比べ、選べる言葉や行動の幅が異なっていたので楽しかったです。品のない言葉や堪えもしない弱音を吐いたり、あまり考えず流されて性的な関係を持ってみたり。

もともと、自分の命が100日限りと分かっている誰かの話をやりたいと思っていて、もっと達観して余裕のある人を主人公にしようと思っていたのですがキャラも雰囲気もがらっと変わって今の形になりました。

 


恭二郎(きょうじろう)

秋人に比べ、はじめからすんなりキャラが固まっていたのが恭二郎です。基本的には物静かなのですが、いざ口を開いて語り始めると止まらず、秋人もやる気がないので相槌も打ってもらえないまま恭二郎の台詞がひたすら続き……。読み手から見るとどうなのだろうとは思いながらも、恭二郎の様々な表情が書きたいもののひとつでもあったので、ストップかけずに長い長い台詞を好きなように書きました。

表情とは言ったものの、表情パターン数は秋人に比べて少ないのです。それは、心の内をあまり表情に出さないキャラクターだからなのですが、彼としては心の機微を思いきり顔に出すのは品がないと考えているはず。驚き、悲しみ、不安、いろいろな感情をすぐに顔に出す秋人と対照的になっています。基本的には目と口が少し動くだけ。でも恋を語る場面だけは、少しうっとりとした表情にしました。個人的には「メスの顔!」と思って描きましたが、もっとうっとりさせてもよかったような、控えめで丁度いいような……迷いの残った部分です。

一方イベント絵の方では、ぼろぼろ涙をこぼしたり、歪んだ笑顔を見せたりと、いろいろな表情を描いている場面もあります。最後の一枚絵は、恭二郎の口角を上げて描きました。状況はどうあれ、彼の念願が叶ったシーンなので、まさに夢見心地、幸せの絶頂という感じなのかなと。

モノに恋する人といえば、過去にちらっと書きかけて形にならないままだったので、今回書けて楽しかったです。モノに語りかけるだけあって、基本的に語っている最中は聞く耳持たず。まともに恋愛について語らせるのも楽しかったですが、結局本当に人を愛せないので、相手に見返りを求めたり期待をすることもない。「行き止まり」に落ちた秋人にとっては最も気楽な相手で、この状況でなければ関係することはなかった相手でもあります。




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